東京科学大学・新産業創生研究院・医療工学研究所
未病制御学講座
研究内容
子供のアトピーや発達障害、成人してからの生活習慣病も増え、さらには長寿社会となり認知症も社会的問題となっています。これらの原因として遺伝的な要因以外にも環境要因による微細な異常に起因した炎症が、素因となることがわかってきており、相互の疾患に相関があることも指摘されています。病気をより早期に検出できれば、我々により負担が少なく、様々な疾患を未然に防ぐことができ、健康寿命を延ばすことができます。最近では、病気の兆候を示す前(未病)を標的にした“未病の予防・治療”が謳われています。そのためには生体情報を高感度でモニタリングすることと、“未病の予防・治療”方法の開発が必要です。先制医療、precision medicine (個人の特性にあった適切な医療)等、最先端の科学技術を用いた個人の正確な生体情報に基づく適切な医療が取りざたされていますが、これにはかなりの労力と費用が必要で、まだまだ一般の人々への導入は難しいのが現状です。そこで我々は、より早期に簡便に生体内の微細な異常(超早期未病)を検出し、それを標的として、我々に負担が少ない予防・治療方法の開発を目指して下記のようなテーマに取り組んでいます。
研究テーマ
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免疫応答制御機能の解明
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腸管センシングネットワークおよび臓器連関の解明
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超早期未病を標的とした食、医薬品による予防・治療法およびロバストネス増強法の開発
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超早期未病(微細な異常)の検出器の開発
免疫応答制御機能の解明
免疫細胞の動態のみならず、活性化までを生体内でモニターできる細胞系譜特異的なカルシウムバイオセンサー(YC3.60)マウスを世界に先駆けて樹立し、6D(x、y、z、時間、Ca2+シグナリング、細胞標識)生体イメージングを確立してきました。このシステムを利用し、生体内での免疫細胞の活性化、分化の様子をリアルタイムで可視化してみることができます。また、このマウスを利用しての細胞内Ca2+シグナリングに着目した生体イメージングにより、病態を発症しなくても素因があること(超早期未病)が検出できることを見出しています。この系をさらに発展させ、アレルギー、ウイルス感染、自己免疫疾患など各種疾患の発症、および病態の進行過程で起こっている事象の詳細な解明を目的としています。
腸管センシングネットワークおよび臓器連関の解明
腸管は進化の過程を遡れば、我々、生命体のプロトタイプであり、生命現象の根源をなす重要な器官です。腸管には免疫系、末梢神経系、内分泌系が集中しており、中枢神経系とも直接の情報のやり取りをしています。口から摂取した食物、医薬品などが腸管でどのように認識されているのか、これまではブラックボックスでわかりませんでしたが、我々が世界で初めて確立した生体イメージングシステムにより、その応答を神経、免疫、あるいは内分泌細胞特異的にリアルタイムで可視化することができます。それぞれのクロストーク、さらには腸-脳、腸-皮膚などの臓器連関を明らかにすることにより、我々が口から摂取したものが生体に及ぼす影響の機序を明らかにすることを目的としています。
超早期未病の予防・治療法及びロバストネス増強法の確立
上記2つの研究を組み合わせ、超早期未病を標的とした食品、医薬品の開発、さらにはストレスに強く、病気になりにくい心身の健康を増強する食品、医薬品の開発を目指しています。
効果が期待される食品、天然物、並びにそれら由来の成分及び化合物について、我々が確立した評価系を用いて、免疫系、神経系、内分泌を含む腸管上皮への影響を明らかにし、免疫系、腸管・皮膚バリア機能にもともと異常あるいは疾患の素因を持つモデルマウス系や食餌による肥満マウスモデル系を用いて、その予防・治療方法、ロバストネス獲得法を開発します。
超早期未病検出器の開発
現在、未病として定義されている段階は、既に病気が起こるところ、あるいはその直後からの自覚症状ないレベルの早期発見をターゲットとしていますが、いずれにしても質的な変化(遺伝子発現レベルの変化)が起こった後で、既に発症してしまっている状態です。我々はこれまでの未病という定義よりさらに前の発症にはまだ至っていない微細な変化(超早期未病あるいは“未病因子”)の検出方法の確立を目指しており、これらの標的であれば、食品などでも効果的な予防・治療することができると考えられます。上記の基礎研究成果をもとに臨床応用を見据え、ヒトでの生活習慣病、発達障害などの疾患の素因となる微細な異常を簡便に測定できる機器の開発を目指しています。